2018年2月13日火曜日

アメリカに監視される日本 ~スノーデン“未公開ファイル”の衝撃~

2017年4月24日(月)
アメリカに監視される日本 ~スノーデン“未公開ファイル”の衝撃~
米極秘文書を入手 スノーデン“日本ファイル”

今夜はアメリカの極秘文書のスクープです。
2013年、アメリカの諜報活動の実態を暴露したCIAのエドワード・スノーデン元職員。
実はそのとき公表された極秘ファイルは、一部にすぎませんでした。
今回、NHKは日本に関する13の未公開ファイルを入手。
そこから浮かび上がってきたのは、アメリカが同盟国の日本を諜報の対象にしていたということ。
さらに、その情報を一部の国と極秘裏に共有していたことも分かってきました。
米 諜報機関 元職員
「アメリカは他国をスパイしています。
“国家の不正は不正ではない”と言う人もいます。」

ニュージーランド 元首相
「アメリカによる諜報はとても役立った。
諜報はあらゆる場面で非常に重要だ。」

さらに未公開ファイルには、アメリカが世界中を監視するために使っていた特殊なプログラムが日本に提供されていたという記述もありました。
私たちはロシアに亡命しているスノーデン元職員を直撃しました。


スノーデン元職員
「これは『XKEYSCORE』という監視プログラムです。
このプログラムが“大量監視”を可能にする。
あらゆる人々のコミュニケーションをいつでも簡単に監視できる。」

未公開のスノーデンファイルがもたらす新たな衝撃。
アメリカの諜報機関と日本の知られざる関係に迫ります。

スノーデン“未公開ファイル”
田中:こちらが、私たちが入手したスノーデンファイル。
つい数時間前に、アメリカで公開されたばかりです。
アメリカ国防総省の諜報機関である、NSA・国家安全保障局の極秘文書で、内部で情報を共有するためにまとめられた報告書です。


2013年、スノーデン元職員は、アメリカの諜報活動が市民のプライバシーを脅かしているとして、スノーデンファイルを暴露しました。
当時、NSAはテロ対策を名目に、“Collect it all =すべてを収集する”というスローガンを掲げ、極秘に民間通信会社や電話会社から、通信や通話の記録を大量に収集。
その中には、世界中の市民の電話・メール・SNSなどが含まれていました。
この一般市民まで対象にしたNSAの情報収集活動には、国内外で批判が高まり、オバマ政権は、監視政策に一部行きすぎた面はあったと認め、一部、手法を見直すこととなりました。

スノーデン元職員は告発後、暴露したファイルを調査報道を専門とするアメリカのNPO、インターセプトに託しました。
今回私たちは、インターセプトから日本に関する未公開の13ファイルの提供を受け、取材を進めました。
そのファイルに記述されていた主な内容はこちら。
「アメリカが諜報活動に日本を利用していた」「アメリカが日本を監視対象にしていた」そして「“大量監視プログラム”を日本に提供していた可能性」。
このうち、まずはアメリカが諜報活動に日本を利用していたという記述についてです。
スノーデン“未公開ファイル” 米 諜報活動に日本のカネが!?
スノーデンファイルは、アメリカ政府のトップシークレット、そして「ファイブ・アイズ」と呼ばれる5か国のみが閲覧できる極秘資料からなっています。
今回、NHKが入手したのは、日本に関する13の未公開ファイル。
その中には、アメリカが諜報活動に日本を利用していた実態が記されていました。
その1つ、沖縄の米軍基地について書かれた2007年の極秘報告書です。
沖縄のキャンプ・キンザーからキャンプ・ハンセンに通信施設を移転する際、日本の費用で諜報のための設備を強化したと記されています。


“NSAの目的は、沖縄での諜報活動を維持し向上させるために日本からの財政支援を強化させ、高周波を使って傍受した情報をアメリカの本部などに転送させることだった。
この移転のために、日本の税金から約5億ドルを負担させる見積もりだった。
このミッションは無事完了した。”

2012年にまとめられた別の報告書には、東京にある横田基地で、諜報活動のための施設に日本の費用が使われていたという記述がありました。

“660万ドルの最新鋭の通信施設は、ほとんど日本政府が支払ってくれた。
スタッフの人件費37万5,000ドルも全て日本政府が支払ってくれた。”

さらに、この施設で作られた通信傍受の設備が、世界の紛争地でのアメリカ軍の諜報活動に使われていたとも記されています。

“横田基地で製造した中で最も特筆すべき機器は、アフガニスタンでのアルカイダ攻撃を支えたアンテナである。”
スノーデンファイルに記された日本の経費負担が、具体的にどのような予算措置に基づくものなのか、詳細は記されていません。
今回の未公開ファイルについてNSAに確認したところ、「一切コメントしない」と回答を寄せました。
防衛省は「どのような性格の文書か承知していないため、コメントは差し控えます」と回答しました。
こうしたアメリカの世界中での諜報活動に日本のお金が使われていた場合、問題はないのか。

中央大学 総合政策学部 宮下紘准教授
「設備に対して日本が財政的な支援をしていた、それが戦争に使われていたという分であれば、そのプロセスもすべて明らかにした上で、果たしてそれが適正な支出であったかどうか、民主的な議論が必要ではないかと思っております。」

スノーデン“未公開ファイル” 米 諜報活動に利用された日本
未公開ファイルには、歴史的な事件の裏側でNSAと日本の関係に暗雲が立ちこめたという記述もありました。
1983年に起きた、大韓航空機撃墜事件に関する報告書です。

“NSAとG2ANNEX(防衛庁の情報機関)との関係に深刻な衝撃を与えた。”

アメリカから韓国へ向かっていた大韓航空機が予定のルートを外れ、ソビエトの領空へ侵入。
飛行機は撃墜され、日本人28人を含む269人全員死亡しましたが、当初ソビエトは関与を認めませんでした。

ソビエト連邦 グロムイコ外相(当時)
「アメリカが韓国の航空機事故を故意に利用し、国際情勢を悪化させようとしているのは明白だ。」

実はこのとき、自衛隊が決定的証拠をつかんでいました。
ソビエトの戦闘機と地上との交信を傍受していたのです。
通常、傍受した音声そのものは公表されることはありません。
通信傍受の手段などが知られてしまうからです。
しかし報告書には、日本が傍受したこの音声の記録をアメリカが入手し、公表した経緯が記されていました。

“日本の諜報機関が傍受した情報のコピーを受け取るには防衛庁の承認が必要で、簡単に事は進まなかった。
アメリカが入手した後、音声テープはNSA本部に送られ、ソ連の間違った行為を暴く役割を果たした。”


当時、日本からの音声テープを受け取ったという元NSAの職員が、取材に応じました。
カーク・ウィービーさん。
NSA本部で諜報の分析を担当していました。

「このスノーデンファイルを見てください。」

NSA 元分析官 カーク・ウィービー氏
「大韓航空機撃墜事件ですね。
NSAにいた私は、これに直接関わっていました。
ソビエトの戦闘機の傍受記録が入った箱のことは忘れられません。
段ボールを開けたときに、寿司をつつむ箱に入っていて、魚のにおいがしたのを覚えています。」

通常、表に出ないはずの音声記録は、NSAを経由して国連の場で公表されたのです。
防衛庁の情報機関で部長を務めたこともある、茂田忠良さんです。

「アメリカの日本での活動について書かれているんですけれども、大韓航空機がこちらなんです。」

防衛庁 情報本部 元電波部長 茂田忠良さん
「ちょっと私からコメントするのは。」

一般論と前置きしたうえで、茂田さんは、大韓航空機撃墜事件の際のアメリカの行動は、日本側の信頼を損ないかねないものだったと指摘します。

防衛庁 情報本部 元電波部長 茂田忠良さん
「相手(ソビエト)からすれば、この通信を相手(日本)が聞いていたんだというのが明確になるわけですから、そこで同じ通信を今後も続けていけば、また同じ情報が取られるよ、通信方式を変えましょうということに、常識的になりますよね。
その系列の情報源がある意味全部消えてなくなるわけですから、情報(機関)的には大変困る。」

スノーデン“未公開ファイル” 米 諜報活動に利用された日本
ゲスト池上彰さん(ジャーナリスト)
今回入手したファイルで、あらゆる通信記録を収集しているNSAの諜報活動に日本の国民の税金が使われた可能性が浮かび上がってきたが、どう見る?
池上さん:これはもう全く新しい情報ですよね。
日本にいるアメリカ軍というのは「日本の防衛のためにいる」ということになっていまして、私たちもそれを了解しているわけですね。
いわゆる在日米軍駐留経費という形で日本が負担するのは当然と思っている一方で、それがこのような形で使われて、結果的にアフガニスタンでの戦争に使われたということになりますと、これは大変大きな問題になるのではないか。
これが一体どのような形で、日本側の支出につながったのかということ、これはやはり、きちっと説明責任というのが出てくると思うんですね。

大韓航空機の撃墜事件では、日本が傍受した情報がアメリカ側によって使用されたという経緯が浮かび上がってきているが?

池上さん:この事件は私、ソウルで大韓航空機の遺族に実際に取材をしたものですから、非常に生々しい記憶が残っているんですが、日本側が傍受した情報が、アメリカ側から国連で公表されますと、日本側が傍受していたということが明らかになってしまいますね。
そして事実、あのあと日本側はソ連の戦闘機の通信記録が傍受できなくなってしまうんですね。
日本側に非常に大きな痛手となったということで、ただその一方で、お互い情報というのはギブ&テイクという部分がありますから、情報をどのように共有するのかというのが、大変大きな問題を投げかけた。
そして、その相手側がNSAだったということが今回初めて明らかになったんですね。
NSAというのは、実は“No Such Agency=そんな組織は存在しない”の頭文字だといわれるぐらいのものだった。
それが、このころから実は活動していたというのも新しい情報でしたね。

田中:今回入手した13の未公開ファイルは、アメリカしか閲覧できないもの、または、イギリスやカナダなどを含む5か国の「ファイブ・アイズ」でしか見られないものです。
日本はといいますと、アメリカの同盟国ではありますが、サードパーティーと呼ばれるグループに位置づけられていて、機密情報の共有というのは限定されているんです。
しかも今回入手した未公開ファイルについて取材した結果、アメリカが日本を監視対象にまでしていたことも明らかになりました。


スノーデン“未公開ファイル” 日本はアメリカに監視されていた
2007年にアメリカで開かれたIWC・国際捕鯨委員会の総会についての極秘報告書です。
この総会での焦点は、アメリカやオーストラリアが強く反対していた商業捕鯨を再開するかどうかでした。


日本は長年禁止されている商業捕鯨再開の流れを作るため、まずは日本沿岸での小規模な捕鯨再開を提案する作戦でした。
当時、日本政府の交渉団の一員として総会に参加していた森下丈二さんです。
IWCでは日本などの捕鯨支持国と反捕鯨国が鋭く対立し、資源管理などについて冷静な議論もできない状況に陥っていました。
そうした中、日本は反捕鯨国にも地道なロビー活動を繰り返すなどして、議論の正常化に向けた手応えを感じていたといいます。

水産庁 漁業交渉官(当時) 森下丈二さん
「会議に先立って、われわれも正常化のための提案をやったり、他の国も反捕鯨国も集まって話をすることをやり始めていたので、いい兆候はあったわけですね。」

しかしスノーデンファイルには、こうした水面下での日本の働きかけが反捕鯨国側に筒抜けになっていたことが記されていました。

“日本のロビー活動などの詳しい情報を、電話やネットの傍受によって得ることができた。”

NSAの諜報活動の拠点となっていたのは、総会の会場から30キロ離れたアメリカの空軍基地の施設。
ここに、傍受された日本の内部情報が集められていたと見られます。

“通信傍受で得た最新の情報を入手するため、毎朝7時に30分かけて、情報収集の拠点となっている空軍基地に行く必要があった。”

具体的になんの情報を得ていたのか、詳細はこの報告書には記されていません。
しかし、得られた情報をアメリカと同じ反捕鯨国であるファイブ・アイズの国々で共有していたことが明らかになりました。

“機密資料を指差し、うなずきあっていたのは、うまくいっている印だった。
ニュージーランドやオーストラリアの代表者も機密資料を読んだ。
声を出さずに読んでもらった。
読み終わるとシュレッダーにかけた。”

このときニュージーランド代表の1人として参加していた、ジェフェリー・パルマ元首相です。
このIWC総会の間に、アメリカが諜報で得た内容を伝えられていたことを認めました。

ニュージーランド ジェフェリー・パルマ元首相
「諜報関連事項については話すことができません。
それは許されていない。
しかし言えるとすれば、あらゆる分野において諜報は非常に重要です。」

「NSAはあなたの助けになりましたか?」


ニュージーランド ジェフェリー・パルマ元首相
「諜報で得た情報が『とても役立った』ということは言えるでしょう。」

ニュージーランド元首相が「役立った」とだけ語ったアメリカの諜報活動。
IWC総会では、日本の事前の感触とは異なり厳しいムードが漂っていきます。

「日本は長年、調査のためにクジラを獲っているが、その調査結果の発表はほとんどない。」

「日本の(小規模捕鯨の)提案は、他国の先住民が伝統的な慣習として行っている捕鯨とは同じではない。」

日本が局面打開の切り札と捉えていた、沿岸での小規模な捕鯨再開。
乱獲にはつながらないというデータも用意していましたが、冷静な議論はできず、一部のNGOの抗議などもあり、結局、採決にかけることさえできませんでした。

水産庁 漁業交渉官(当時) 森下丈二さん
「日本はつらい思いもして科学データを荒れる海からとってきて、それを積み上げて提案しているのに話も聞いてくれないと。
アメリカの情報収集能力が高いのは間違いない。
いろいろなことはやってるんでしょう。」

果たしてアメリカの諜報活動は、日本をもターゲットにしているのか?
NSA元職員で、行き過ぎた諜報活動に反発し告発した経験を持つトーマス・ドレイクさんは、アメリカの諜報活動に制限はないと語ります。

元NSA職員 トーマス・ドレイクさん
「アメリカは他国をスパイしています。
諜報によってもたらされる黄金の情報を、見ないふりをすることはできません。
『国家が行う不正は不正ではない』という職員もいますが、とんでもないことです。」

アメリカの日本への諜報活動を明らかにしたスノーデンファイル。
報告書の最後は、こう締めくくられています。

“努力に見合う結果だったか?
同盟国はみなイエスと言うだろう。
クジラもきっと喜んでくれるはずだ。”

スノーデン“未公開ファイル” アメリカに監視される日本
日本も同盟国でありながら監視の対象になっている可能性も浮かび上がってきたが?
池上さん:アメリカは同盟国だと信頼感を持っていたら、裏切られた思いですよね。
特にスノーデンファイル、前回公表されたものでは、ドイツのメルケル首相の電話まで盗聴していたというのがありました。
ドイツをはじめEU諸国がアメリカに抗議しましたね。
日本としてもここはやっぱり、きぜんとした態度で、アメリカに対して抗議、あるいは物申すべきことだと思いますね。

NSAの情報収集活動、テロ対策や安全保障対策で情報収集していると説明されることが多いが、そうした目的以外でも使われているという実態をどう捉えればよい?
池上さん:これは東西冷戦時代に、アメリカがソ連や中国や北朝鮮の情報を収集するためにこういうシステムを作ったわけですね。
そうしたら東西冷戦が終わってしまった、だけどいろんな情報が入ってくる。
だったらこれを国益のために使えばいいじゃないかというのがアメリカの国内で議論になりまして、いろんなところで取れた情報を、アメリカのいろんな関係の省に情報を流しているといわれていたんですが、あっ、このように使われていたのかというのが、本当に初めて明るみに出たと思いますね。

一般の市民はテロ対策という説明に納得しがちだが?
池上さん:テロ対策と言われれば、なんとなく納得するんですが、それ以外のところで実はこういうふうに使われていた。
言ってみれば、日本にとっての国益を害するような形で同盟国のはずのアメリカが使っていた。
これは本当に驚きですし、きちんと抗議すべき話だと思いますね。

一方で日本国内、特に日本政府からは、こうしたNSAの情報収集に対して批判的な声は少ないが、この内容が事実だとすると見過ごせない面もある。これはどう捉えれば?
池上さん:これはね、日本政府側にいささか引け目があるんですね。
アメリカは圧倒的な情報を集めてきて、そのうち都合のいい部分だけですけれども、日本側に提供してくるわけですね。
一方で日本側は、アメリカ側に提供するのがなかなかないと、一方的に向こうからもらっているという立場ですと、物申すっていう形になかなかできないという部分があるんですね。
だからこそ、日本は日本独自に、きちっとした情報収集のシステムをやっぱり作っていく必要があると思うんですね。
(それには制約も必要?)
当然そうですね。
それが正当な形で行われてるかどうかということを、例えば国会がこれを監視するとか、そういうシステムが求められてくると思います。
日本というのはやっぱり専守防衛できたわけですね、そのためにも、言ってみれば力の弱いウサギが、長い耳を持って危険を察知するように、日本としても、そういう長い耳を持ったウサギになる必要があると思うんですね。

 
 
今回 NHKが入手した、日本に関する“スノーデン・ファイル”(一部)を公開します。

・横田基地内のNSA施設に関する報告書

・沖縄にあるNSA施設移転に関する報告書

・1983年の大韓航空機撃墜事件に関する報告書

・2007年のIWC・国際捕鯨委員会の総会に関する報告書

(ファイルはいずれも、NSA・国家安全保障局の内部や一部の同盟国で共有するためにまとめられた報告書です。)

2018年2月12日月曜日

オリバー・ストーンが明かした“日本のインフラにマルウェア”のスノーデン証言

オリバー・ストーンが明かした“日本のインフラにマルウェア”のスノーデン証言
週刊新潮 2017年2月2日号掲載

 1月27日公開の映画「スノーデン」には衝撃的なシーンがある。もし、日本が米国の同盟国をやめたら、米国によって日本中に仕掛けられた不正プログラムが起動し、大パニックを引き起こす……。オリバー・ストーン監督(70)が描く世界は決して夢物語ではない。

 ***

 2013年、NSA(米国家安全保障局)の元職員、エドワード・スノーデン氏(33)が、米国が世界中のメールやSNS、通話を国家ぐるみで監視していると暴露した。主要各国の指導者や大使館、国連本部などに対しても、監視、盗聴が密かに行われているという驚くべき内容で、“スノーデン旋風”を巻き起こしたのはご存じの通りだ。

 そのスノーデン氏の半生を、「プラトーン」「7月4日に生まれて」など数々の社会派作品で知られるオリバー・ストーン監督の手で映画化したのが、「スノーデン」である。

 そのなかで、とりわけ日本にとって衝撃的なのは、横田基地での勤務を回想するシーン。

 米国によって、送電網やダム、病院などの社会インフラに不正プログラムが仕込まれ、もし日本が同盟国でなくなったら不正プログラムが起動し、日本は壊滅するとスノーデン氏が証言する。そこに挿し込まれるのは、日本列島から灯りが次々に消えていく映像……。

 電力を失えば、福島でのように原発は制御不能に陥り、メルトダウンに突き進む。

 日本が、大パニックになるのは間違いない。

 来日したオリバー・ストーン監督は、1月18日の記者会見で、次のように説明した。

〈スノーデン自身から僕が聞いたのは、米国が日本中を監視したいと申し出たが、日本の諜報機関が“それは違法であるし、倫理的にもいかがなものか”ということで拒否した。しかし、米国は構わず監視した。そして、同盟国でなくなった途端にインフラをすべて落とすようにインフラにマルウェア(不正プログラム)が仕込んである、というふうなことです〉

 さらに、

〈そもそもの発端は、07、08年頃から、イランにマルウェアを仕込んだことから始まります。(略)このときのウィルスは、スタックスネットというウィルスなのですが、イスラエルとアメリカがイランに仕掛けたものです。非常に醜い物語です。このウィルスが発端となって、世界中に“ウィルス攻撃ができるんだ”と、サイバー戦争というものが始まっていきました〉

 オリバー・ストーン監督が口にしたスタックスネットというウィルスは、どのようなものなのか。

 ITジャーナリストが解説する。

「そのウィルスは、10年にイラン中部のナタンズにある核開発施設の制御システムへの侵入に成功し、ウラン濃縮用の遠心分離器約8400台を稼働不能にしました。その結果、イランはウラン濃縮を一時停止し、核開発は大幅に遅れることになったのです」

 単に、侵入先のコンピューターから機密データを盗んだり、破壊するのではなく、社会インフラを攻撃する、いわば“兵器”だという。

「通常、社会インフラの制御システムは安全性を保つため、インターネットには接続せず、クローズドの状態に置かれている。しかし、制御システムもメンテナンスのためにアップデートしなければなりません。その場合、他のパソコンでアップデート情報をダウンロードし、USBメモリで移し替えるのですが、そのパソコンをスタックスネットに感染させておく手口が使われます」(同)

 一昨年の暮れには、ロシアの関与が強く疑われるサイバー攻撃によって、ウクライナが大規模停電に見舞われた。このときに使われたウィルスもスタックスネットと同じく、“トロイの木馬型”と呼ばれるものだった。

 ただ、映画の原作となった『スノーデンファイル』や、『暴露』などの他の著書にも、米国が日本中の社会インフラにスタックスネットなどの不正プログラムを仕込んでいるという記述は見つからない。

 しかし、オリバー・ストーン監督は、2年間で9度にわたってスノーデン氏にインタビューし、その証言を引き出したという。

■秘密プロジェクト“プリズム”
 一方、別の見方をするのは、サイバーディフェンス研究所の名和利男上級分析官である。

「スノーデンは、NSAがマイクロソフトやグーグル、アップルなどのサーバーに直接アクセスし、情報収集している“プリズム”という秘密プロジェクトの存在を白日の下に晒しました。つまり、米国のIT企業は米国の諜報活動に協力しているわけです。ですから、わざわざ、後からウィルスを侵入させなくても、米国製コンピューターのハードウェアやOSには出荷時点で、米国に都合の良いシステムがすでに仕込まれている可能性があるのです」

 実は、スノーデン氏が訴えたかったのは、米国製コンピューターが一部でも制御システムに組み込まれていれば、社会インフラは破壊されてしまうということではないかという。

 米国は、片手で握手を求めながら、片手では殴りかかろうと拳を固めているのである。

 日本安全保障・危機管理学会の新田容子主任研究員によれば、

「日本やドイツなど同盟国の首脳らの通信がNSAの監視対象だったと明るみに出ると、外交上、各国は一斉に猛反発し、当時のオバマ大統領は大統領令で、“今後は監視しない”と宣言するしかありませんでした。でも、15年、今度はウィキリークスが、日本の省庁などを盗聴していた事実を暴きました」

 その結果、バイデン副大統領が日本政府に謝罪せざるを得なくなったわけだが、

「米国はそれ以降も、同盟国に対するサイバー攻撃を含んだ諜報活動を自粛しようともしていません。国際社会では諜報活動が当たり前のように行われる現実を前提にして、国家運営の舵取りをしなければならない。例えば、シンガポールではサイバー攻撃のリスク回避のため、この5月から公務員の使用するコンピューター約10万台のインターネット接続を遮断する方針を決めました。それくらい、徹底的な措置も必要になってくるのです」(同)

 過激さを増すサイバー攻撃に手を拱(こまね)いてばかりいては、日本に残されているのは破滅の道しかないのである。

2018年1月31日水曜日

5年間の特派員生活

以下はドイツの日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイツゥング紙の東京特派員カーステン・ゲルミス氏による、5年間の特派員生活を振り返った手記です。

特派員生活のあいだに体験した、安倍政権による報道機関への抑圧の一例を紹介した記事であり、外国特派員協会会報誌「Number 1 Shimbun」ウェブ版に2015年4月1日付けで掲載されたところ、短期間に大きな反響を得たものです。現在の日本におけるジャーナリズムが直面している危機的状況を把握する一助として、ゲルミス氏の了解を得て日本の読者のために全文の日本語訳を掲載いたします。



旅支度を整え 私は日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙での5年を越す特派員生活を終え、このたび帰国の途につく。

2010年1月の着任時と比べ、この国は表面的には変わっていないようで、社会要素的にはゆっくりとではあるが着実に変化してきている。特に過去一年間は私も仕事上かなりの影響を受けたと感じている。

日本の政治的エリートたちが認知していることと海外のメディアで報じられていることとの間のギャップが大きくなりつつあり 在日外国人ジャーナリストたちにとって問題を引き起こしはしないかと危惧している。もちろん、日本は報道の自由がある民主主義の国であり、おぼつかない日本語しかできない外国人特派員でも情報にアクセスすることは可能だ。しかし、このギャップは安倍晋三首相のリーダーシップのもとで行われている変革、つまり歴史を修正しようとする右派的活動によるものである。日本のエリートたちにとって、海外のメディアによる反対的な見解や批判 -これからも続くとみられる- に向き合うことが困難ならば、それは問題になりえるのではないか。

日本経済新聞は最近、ドイツのメルケル首相がこの2月に行った日本訪問についてベルリン特派員の記事を載せた。「首相の日本訪問は友好というより日本批判という結果をもたらした。日本の専門家とは原子力利用を終わらせるという自国の政策を語った。朝日新聞社での講演でも、安倍首相との会談でも、メルケル首相は戦争責任のことについて語った。最大の野党、民主党の岡田克也総裁とも会談し….友好的であったのはドイツ企業を訪問したときとロボット・アシモと握手をするときだけであった」

これは厳しく見える。だが、それを呑んだとしても、友好的とはなにか。友好的であるとは単に同意することだろうか。友人が自らを傷けるようなことをしようとしているときに、自分の信念を伝えることではないだろうか。メルケル首相の訪問は、確かに、単なる批判をするのではなく、もっと複雑なことを伝えようとしたのだ。

私の立場をはっきりさせておこう。着任以来5年経って、私のこの国への愛、愛情はゆるぎないもので 実際、すばらしい人々との出会いにより 募るばかりだ。特に東日本大震災以後、私の記事を読んでくれた日本人の友人や読者のほとんどが私の書いた記事に愛情を感じると言ってくれている。

ところが、東京の外務省の官僚たちやある日本のメディア関係者たちはまったく違った見方をする。つまり私は厳しい批判ばかりすることしかできない「日本批判家」であって、われわれが日独の相互の友好関係を阻害する存在だと。

フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙は政治的には保守、経済的にはリベラルで市場志向型と言っていい。だが、安倍首相の歴史修正主義に対しては常に批判的な立場を貫いてきた。ドイツでは、リベラルな民主主義者が他国への侵略の責任を否定するなどということは信じられない所業とみなされるものであり、ゆえに、もしドイツにおける日本への親近感が薄らぐようなことが起きるとすれば、それはメディア報道のせいではなくて、ドイツ人のもつ歴史修正主義への反感から来るものである。

私の日本滞在期間には様々な事柄があった。2010年の民主党政権時、私の取材した鳩山・管・野田歴代三内閣はみな海外メディアに政策を理解してもらおうという姿勢があった。「国を運営していくためにもっと頑張らなくてはならない」と口を揃えて言っていたことを覚えている。

外国特派員は当時、岡田克也副総理に意見交換会によく呼ばれた。官邸で毎週の定例会があり、オープンに時事問題についてよく議論をたたかわせた。我々はある特定の事象について政府の立場をたびたび批判したりもしたが、それでも彼らは我々に彼らのスタンスを理解させようと辛抱強くつとめた。

2012年の選挙の後、自民党が政権を担うことになると事態は一変した。首相がフェイスブックなどの新しいメディアにご執心なのにもかかわらず、それ以外で政府が外国人報道陣に開放的だったことはない。財務大臣の麻生太郎は外国特派員と懇談したり、膨大な国家の借金についての質問に答えようと努めることはなかった。

実際、外国特派員には尋ねたい事柄の膨大なリストがある。エネルギー政策、アベノミクスの危険性、憲法改定、若い世代の失業問題、地方の人口減少など。しかし、閣僚たちが外国特派員たちに質問の場を設けるような気はないらしい。それどころか、この新しい政権を批判しようものなら、「日本バッシャー(批判家)」と呼ばれた。

5年前にはあり得なかった新しいことといえば、外務省からの攻撃に曝されるようになったことだ。私が直接攻撃されるばかりでなく、ドイツ本国の新聞本社の編集部への攻撃もあった。私が安倍政権の歴史修正主義に批判的に書いた記事が掲載されると、フランクフルトの日本総領事が、新聞本紙の外交担当のデスクを訪ねてきて、「東京」からの異議を伝えた。中国がこの記事を反日プロパガンダに利用していると抗議したのだ。

事はさらに悪くなった。冷え切った90分間の会談の終わりに、デスクは記事が間違えているという事実を証明する情報を総領事に求めたが、それは無駄に終わった。「金が絡んでいると疑いざるを得ない」と外交官は言った。それは、私を、デスクを、そして新聞社全体を侮辱することにほかならないことだ。そして、私の記事の切り抜きのフォルダーを引き出しながら、中国のプロパガンダ記事を書く必要があるとは、ご愁傷様ですなと続けた。私がビザ申請の承認を得るためにその記事を書く必要があったらしいと考えているようだった。

私が?北京の雇われスパイだって?そこに行ったこともなければ、ビザの申請をしたこともないというのに。もしこれが、日本の目指すものを理解してもらうための、新しい政権のやり方だとすれば、そんな簡単にことが運ぶものではない。もちろん、親中国という非難は私のデスクの気に入るところではなく、むしろ私にレポートを続けるようにとの青信号を出した。

高圧的な姿勢は過去数年にわたって増え続けた。2012年まだ民主党政権だったころ、私は、元慰安婦に取材する機会を求め、また紛争の渦中にある竹島(韓国語では独島)を訪ねるために韓国に旅行をした。もちろん、それは韓国政府のPRに違いなかったが、論争の中心を私自身の目で見てみるという滅多にない機会だった。私はその直後外務省より昼食の招待を受け、島が日本のものであると証明する何十ページもある資料を渡された。

2013年、もう安倍政権になっていたが、三人の元慰安婦のインタビューについて書いたあと、私は再び昼食に招待された。そして首相の考えを理解するための資料を再び手渡された。

だが、2014年になると事態は変化した。外務省の当局者は今や、批判的な報道に公然と攻撃するように見えた。私は、首相のナショナリズムが対中国貿易にもたらした影響について記事を書いた後に呼び出された。私は公式に発表された統計を引用しただけだと伝えたが、彼らは数字が違っていると反論してきた。

話は戻るが、ドイツでの総領事とデスクとの会談の2週間前にも、私は外務省当局者たちと昼食をとっていた。そこで彼らは、私が「歴史を修正する」という言葉を使ったり、安倍首相の国粋主義的な方針は「日本を、東アジアの中だけでなく孤立」させかねないという考えを書いたりすることに抗議した。その口調は、説明しようとか、理解してもらおうというのではなく、冷淡なもので、その態度はまるで怒っているようだった。私が、なぜドイツのメディアが歴史的修正主義にとくに敏感なのかを説明しようとしても、誰も聞こうとしなかった。

政府の役人たちからの外国特派員たちへの昼食会の招待の数が増えてきていることや、第二次世界大戦の日本の見解を広めるための予算が増えていること、あまりに批判的に見なされている外国特派員たちの上司を(もちろんビジネスクラスで)招待するという新しいトレンドのことも聞いている。そこで私は、政府側の方たちに対してひとつ提言したい。こうしたデスクたちは政治的なPRに遭遇することは日常的なことと言っても過言ではなく、政府側の不注意な努力はしばしば意図とは反対の効果をもたらしやすい。私のケースで言えば、デスクがドイツで領事に会った際、中国から私が基金を受けていると領事が発言したことを後日外務省に公式に抗議を申し入れたところ、外務省が「それは誤解だった」と言ったのみで、結局なんの意味ももたなかったのである。

私が去るにあたってのメッセージとしては − ほかの人とは違っていて、私は日本における、言論の自由に対する脅威を感じてはいない。民主党政権のときより批判的な声はずっと静かになってきてはいるけれど、それは確かに存在していて そしてそれは おそらく以前よりより多い。

日本の政治的エリートたちの閉鎖的なメンタリティーと、政権指導者たちに海外メディアとオープンな議論をする危険を冒す能力が欠如していることは、実は報道の自由には影響を与えない。情報を集めるための取材源は他にもたくさんあるのだ。しかしこのことは、民主主義の下では政府が政策を国民に、そして世界に向かって説明する義務があることを 政府がほとんどわかっていないことを明らかにしている。

自民党の報道部には英語を話す人を置いていないことや、外国人ジャーナリストには情報を提供していないということを聞かされても、私はもう、おかしなことだとは思わない。また、よく海外出張すると公言している今の首相が、外国特派員協会で私たちと話すためにほんのちょっと足を運ぶことすらしないとしても、変なことだと驚くことはない。実のところ、私は今の政府が外国の報道に対してだけでなく、自国国民に対しても、いかに秘密主義であるかを知って ただただ悲しいのだ。

過去5年間、私は日本列島を北海道から九州まで動き回ったが、日本に非友好的なことを書いたことを非難する人に東京以外で会ったことがない。それどころか、どこでも面白い話や楽しい人たちに出会ってきた。日本はやはり、世界でもっとも富んで開放的な国の一つである。外国人特派員にとって、住んでも報道をしても楽しいところである。

私の希望は外国人ジャーナリストが、そしてもっと重要なことだが日本の民衆が、自分の意見を発し続けることである。調和は抑圧や無視からは生まれてはこない。真に開かれた、健全な民主主義は、私が5年過ごした我が家に相応しいゴールであると信じている。

カーステン・ゲルミス、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙 元東京支局長(2010-2015) 外国特派員協会理事

2018年1月27日土曜日

2018年1月20日土曜日

“ この国の、納税者ランキングや資産長者ランキングを見てみると、とても面白い。 莫大な資産を築いているのは、人類史に残るような研究をした人や、画期的なビジネスモデルをつくった人でもなんでもない。 サラ金やら、パチンコやら、ソーシャルゲームやら、衣料品メーカーやら、ファーストフードやら、健康食品やらそういうのばっかりだ。 ようは「いかに底辺層の世界で受けやすいニーズを見つけて、効率よく搾取することを突き詰めることができたか」が、この国で莫大なお金を稼ぐコツなのだ。 ”


この国の、納税者ランキングや資産長者ランキングを見てみると、とても面白い。

莫大な資産を築いているのは、人類史に残るような研究をした人や、画期的なビジネスモデルをつくった人でもなんでもない。

サラ金やら、パチンコやら、ソーシャルゲームやら、衣料品メーカーやら、ファーストフードやら、健康食品やらそういうのばっかりだ。

ようは「いかに底辺層の世界で受けやすいニーズを見つけて、効率よく搾取することを突き詰めることができたか」が、この国で莫大なお金を稼ぐコツなのだ。

2018年1月19日金曜日

 "歯舞"を読めなかった「島尻安伊子」北方領土担当相、"川内原発"を読めなかった原子力損害賠償・廃炉等支援機構担当を兼務していた「宮澤洋一」経済産業大臣、"伊方原発"を読めなかった「菅義偉」官房長官。杉原千畝(スギハラチウネ)が読めない安倍

 "歯舞"を読めなかった「島尻安伊子」北方領土担当相、"川内原発"を読めなかった原子力損害賠償・廃炉等支援機構担当を兼務していた「宮澤洋一」経済産業大臣、"伊方原発"を読めなかった「菅義偉」官房長官。杉原千畝(スギハラチウネ)が読めない安倍

2018年1月15日月曜日

平均年収186万円の人々

平均年収186万円の人々

いま日本の社会は、大きな転換点を迎えている。格差拡大が進むとともに、巨大な下層階級が姿を現わしたからである。その数はおよそ930万人で、就業人口の約15%を占め、急速に拡大しつつある。それは、次のような人々である。

平均年収はわずか186万円で、貧困率は38・7%と高く、とくに女性では、貧困率がほぼ5割に達している。

貧困と隣り合わせだけに、結婚して家族を形成することが難しい。男性では実に66・4%までが未婚で、配偶者がいるのはわずか25・7%である。女性では43・9%までが離死別を経験していて、このことが貧困の原因になっている。生活に満足している人の比率も、また自分を幸せだと考える人の比率も、きわだって低い。

健康状態にも問題がある。4人に1人は健康状態がよくないと自覚している。心の病気を経験した人の比率は、他の人々の3倍近い2割に上っている。そして多くが、「絶望的な気持ちになることがある」「気がめいって、何をしても気が晴れない」「自分は何の価値もない人間のような気持ちになる」と訴える。

暗い子ども時代を送った人が多い。いじめにあった経験をもつ人が3割を超え、不登校の経験者も1割に達し、中退経験者も多い。支えになる人も、少ない。親しい人の数は少なく、地域の集まりや趣味の集まり、学校の同窓会などに参加することも少ない。そして将来の生活に、過半数の人々が不安を感じている。

どんな人々か。パート、派遣、臨時雇用など、身分の不安定な非正規雇用の労働者たちである(技能職・建設職など)。仕事の種類は、マニュアル職、販売職、サービス職が多い。平均労働時間はフルタイム労働者より1-2割少ないだけで、多くがフルタイム並みに働いている。

なぜアンダークラスが誕生したか

資本主義社会の下層階級といえば、かつてはプロレタリアート、つまり労働者階級と相場が決まっていた。自営業者などの旧中間階級を別とすれば、資本主義社会を構成する主要な階級は、経営者などの資本家階級、専門職・管理職などの新中間階級、そして労働者階級であり、労働者階級は最下層のはずだった。

ところが同じ労働者階級であるはずの正規雇用の労働者は、長期不況にもかかわらず収入が安定し、貧困率も低下してきている。労働者階級の内部に巨大な裂け目ができ、非正規労働者は取り残され、底辺へと沈んでいったのだ。

新しい下層階級=アンダークラスの誕生である。アンダークラスはこれまで、とくに米国で、都市の最下層を構成する貧困層を指す言葉として使われてきた。しかし格差が拡大するなか、日本にも正規労働者たちとは明らかに区別できるアンダークラスが誕生し、階級構造の重要な要素となるに至ったのである。こうして生まれた新しい社会のあり方を「新しい階級社会」と呼ぼう。

2015年に全国の1万6000人、2016年に首都圏に住む6000人を対象に行なった調査の結果、資本主義のメインストリームに位置する資本家階級、新中間階級、正規労働者という三つの階級の間には格差や差異が依然として存在するものの、これらとアンダークラスは、あらゆる点で異質であることが明らかになった。

「新しい階級社会」の正体

それは、程度の差はあれ安定した生活を送り、さほど強い不安もなく、満足や幸せを感じながら生きることのできる人々と、これができない人々の違いである。『新・日本の階級社会』は、その膨大な分析結果のエッセンスを詰め込んだものである。

アンダークラスは現状に強い不満を抱き、格差の是正を求めている。これに対してメインストリームの三階級は、格差や貧困を容認する傾向が強く、アンダークラスと対立している。メインストリーマーたちを前に、アンダークラスはあまりにも無力である。

しかし希望もある。実は同じように低賃金で働くパート主婦、資本主義から距離を置く専業主婦、そして大資本との競争に苦しむ旧中間階級は、格差に対するスタンスで、アンダークラスに接近している。所得再分配によって格差を縮小させ、貧困を解消するための政策を支持する傾向が、アンダークラスと同じくらいに強いのである。新しい階級社会に生まれた、新しい政治的対立軸である。

また新中間階級と正規労働者は、格差拡大を容認する傾向が強いといっても、一枚岩ではない。その内部には、格差拡大に反対して所得再分配を支持し、同時に他民族との協調と平和主義の立場に立つリベラル派が、かなりの比率で存在している。

国政は自民党の一強支配が続いているが、その支持基盤は意外に強くない。自民党を積極的に支持しているのは、民族排外主義と軍備優先、そして自己責任論にもとづく格差拡大容認論に凝り固まった一握りの人々であり、それ以外は、必ずしも強く支持するわけではない穏健保守とでもいうべき人々である。

また、かつては貧困層にまで広がっていた自民党の支持基盤は、格差拡大の進むなかで次第に浸食され、富裕層に大きく偏るようになっている。とくに旧中間階級は、かつては自民党の強固な支持基盤だったが、近年では自民党支持率が低下し、野党支持が他の階級より多くなっている。

現状を変えるために必要なのは、格差縮小を一致点として、アンダークラス、主婦、旧中間階級、そして新中間階級と労働者階級のなかのリベラル派の支持を、一手に集めることができるような政治勢力を形成することだ。

すでに支持基盤は形成されつつある。多くの人々が、新しい政治勢力の登場を待ち望んでいるのである。