2017年4月26日水曜日

ツタヤ図書館をつくった自治体

 来年3月、山口県周南市の徳山駅前にオープン予定の新図書館に、またひとつ疑惑が持ち上がった。
 この図書館を空間プロデュースから手掛け、開館後は指定管理者として運営を一手に担うのは、レンタル大手・TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)だ。同社が2011年に東京・渋谷にオープンした代官山蔦屋書店を彷彿とさせる、イメージ先行の図書館がまたひとつつくられようとしている。
 3月18日付当サイト記事『ツタヤ図書館、ダミー本3万5千冊に巨額税金…CCC経営のカフェ&新刊書店入居』において、152万円もの税金を投入して、中身が空洞の“ダミー本”を3万5000冊分も購入する計画であると報じ、大きな反響を得た。
 中心市街地開発の一貫として、建設が予定されている駅ビルにできる複合施設内に、国の補助金をもらうために公共図書館をつくる――。そんな周南市の計画は、佐賀県武雄市、神奈川県海老名市、宮城県多賀城市、岡山県高梁市に続き、同じくCCCが運営する「ツタヤ図書館」と酷似した、典型的な「ハコモノ行政」だった。
 だが、この図書館では、さらに驚くべき事態が進行していた。
 3月上旬、3万5000冊のダミー本を購入する件について、筆者が周南市に問い合わせをしたとき、担当者からなぜか「洋書のことですか?」と聞かれた。そのときは、図書館の蔵書として洋書も入れるのだろうと漠然ととらえていた。ところが、担当部署と市議会関係者に取材してみると、洋書も「本に囲まれた圧倒的な空間づくりのため」と、ダミー本と同じ目的で購入すると明言したのだ。
 担当するのは、新図書館建設プロジェクトを推進している中心市街地整備課。予算も、蔵書購入等の開館準備費用とは別に、移動式書架や家具などの設備関係の製作費として計上されていた。取材してみると、おかしな発言ばかりが出てくる。
「飾りのために置くものなので、取り出して読むことはできない」
「蔵書データに載らない」
「貸出も不可」
「高層書架の上層部に固定する」
「新刊か中古かは問わない」
 このように、市は洋書を完全に書架を演出する装飾用小道具としてとらえていることが判明した。
 中身が空洞のダミー本の場合は、「高い位置に重い本を配架するのは危険だから」との言い訳も立つが、重厚な洋書を高層部分に配置するのは危険極まりない。
「洋書を配置するのは、吹き抜け部分の超・高層書架部分です。高さは8.8メートル。うち高さ3.8メートルまでは、一般の蔵書を配架します。それよりも上の高さ5メートル、横17メートル、14段、延べ247メートルにわたって、すべて装飾用の洋書を固定して配置する計画です」(周南市中心市街地整備課)
 これらはすべてCCCの提案によるもので、「本に囲まれた圧倒的な空間演出」のためだという。


 周南市は、装飾用の洋書をいったい、いくらの費用をかけて、何冊購入する計画なのか。 先述の記事でレポートしたダミー本3万5000冊分に費やす総費用は152万円と、1冊当たりの単価は四十数円だったが、洋書の場合は、そんな額では済まないはずだ。
 担当部署に問い合わせたところ、当初「現在、相見積もりをとっているところなので、3月期末までには判明する」と回答があった。ところが、「ダミー本大量購入」の事実を当サイトが報じたことにより、新図書館建設に批判的な意見が噴出し、市の対応は一変。
 4月に入って問い合わせると「装飾デザイン及び書架・家具製作業務委託費全体で8900万円」とだけ明かし、それ以上の細かい項目については、「CCCの同意がないので公表できない」と開示を拒否した。そこで、CCCにも問い合わせたが無回答だった。
 そこで、市議会の会議録やCCCが過去に開館準備を手掛けたほかの公共図書館における開示文書などのデータを基に、周南市が洋書にかける額を試算してみた。
 まずは、購入予定の洋書冊数だ。判明しているのは、周南市の新図書館の吹き抜け高層書架は、延べ247メートルとなっている。厚さ2センチの本が1万2350冊収納できる。
 市議会の会議録によれば、内装や移動式書架、専用の椅子、テーブルなどの備品購入は、いずれもCCCの提案によるもので、そこにかける費用も数年前にリニューアルした別の市立図書館の約3倍だという。国からの巨額補助金が湯水のごとく注ぎ込まれているためか、かなり贅沢なつくりになっているらしい。
 そんな贅沢さの象徴的な存在が、インテリア小物としての洋書だったのだ。インターネット通信販売で洋書の価格を調べてみると、「デコラティブブックス」「インテリアブックス」といった名称で販売されているものが多くみつかる。それらは中古でも、薄い本で1冊当たり500~1000円、革表紙風の古典的な洋書なら1冊3000~5000円もザラだ。
 装飾用の中古本も扱っている都内の老舗洋書店に聞くと、店長が次のように話す。
「うちでは、ディスプレイ用の中古洋書は、店頭は500円から、通販は900円から販売しています。ただし、1000冊以上の大口になりますと、単価は1200円と高くなります。高いものも交ぜないと冊数を確保できないからです。1000冊を超えると、お客さまのご希望や本の内容、見かけなどの要望は聞かず、“お任せ”になってしまいます。
 2000冊以上は、うちでは扱ったことはありません。8メートル超の高層書架に配架するというのは信じられません。洋書は、重いものでは3キロ以上あるので、そんな高いところから地震で落下すると、死人が出るおそれがあります」
 周南市は、「高層書架の安全対策は万全」と胸を張っているので、相当な対策をとっているとは思うが、やはり不安は拭えない。




 ともかく、仮に市場価格1冊1200円の本を1万2000冊購入すると考えれば、運搬、設置等の費用を除いた本体だけで1440万円もかかることになる。
 一方、周南市の予算をみると、洋書の費用が計上されているのは、CCCに随意契約とした「装飾デザイン及び書架・家具製作業務委託」である。
 什器(床に置く移動式書架)、照明スタンド、サイン類、置物、絵画数点、植栽などを含めた総額は1億2100万円だ。このうち「書架・家具の製作」部分が6600万円、「装飾及びサインのデザイン企画」が5500万円であることが、議会答弁から判明した。
 詳細は省くが、このデータを基にして、過去にCCCが手掛けた佐賀県武雄市図書館のリニューアル工事に関する開示文書のデータなども参考にして導き出した「装飾用洋書」の推定費用は、およそ2000万円に上る。
 公共図書館の中に、中身空洞のダミー本を3万5000冊も並べるだけではなく、もっとも目立つ中央の吹き抜け部分に、1万冊以上の“読めない本”を飾ろうとしているのだ。
 吹き抜け高層書架部分除くと、最大収容能力は10万冊とされているが、そのうち“読める”図書は6万冊だ。ダミー本3万5000冊分、飾りの洋書が(推定)1万2000冊分の計4万7000冊分が“読めない”。ある図書館関係者は、次のように語り、ツタヤ図書館の姿勢を嘆く。
「そんなに潤沢な予算があるのなら、1冊でも多く子供向け絵本などを入れたほうがはるかに市民に喜ばれるのではではないでしょうか。1000万円の予算があれば、2000円の図書が5000冊も余分に買えます」
 公共図書館の概念が根本から崩壊しかねない事態を受けて、周南市の市議会関係者は憤りを隠さない。
「新図書館に関しては、市長もほかの議員も、みんなCCCのいいなりです。ダミー本も今回の洋書も、ろくに議論されませんでした。多額の税金を使って、一民間企業がやりたい放題する図書館をつくるなんて、とんでもなく不遜な行為だと思います」(市議会関係者)

専門家はダミー本、洋書による「雰囲気づくり」を批判

 公共図書館において、ダミーや装飾用の洋書を配置することは、果たして適切なのか。「まちづくり」や「ひとづくり」に役立つ図書館について全国で講演を行い、現在は大学で図書館学を教えている、愛知県田原市図書館元館長の森下芳則氏が学生を相手に講義した内容を、ご本人の許可を得たので紹介したい。
 まずダミー本について、学生たちは「雰囲気づくりにはいい」「(軽いダミーを)高い位置に置くのは、安全対策としては合理的なのではないか」という感想を述べたが、これに対して、森下氏は次のように解説している。
「雰囲気は、建築の造形と、その中で行われる営みによって生まれるものだと思います。紀元前25年頃の世界最古の建築理論書『ウィトルーウィウス建築書』では、建築の要件として『十分な強さをもって、安全である』『求められる機能を充たしている』『造形的に芸術性豊かなものである』という3つを挙げています。建築としての合理性があって、造形の美しさの追求が、その建築物の魅力になるのです」
 近世の大広間図書館については、「利用のためのものではなく、あくまで権力を誇示するための図書館」との教科書の記述を紹介したうえで、こう断じる。
「高い書架は、権威の誇示という点では合理的ですが、図書館の利用のためではありません。現在でも、高い書架は知識の殿堂というイメージがありますが、いまや公共図書館は知の殿堂ではなく、日々の暮らしの中で多くの人に利用されるためのものです。高い書架も、建築物としての合理性がなければ、ただの背景、芝居の書割(舞台の背景画)にすぎません」(森下氏)
 さらに、「雰囲気づくりが目的ならば、壁紙でもよいのではないか」という学生の意見に対して「同感です」と答える。問題は、ツタヤ図書館が「なぜ壁紙ではなく、お金をかけて高い書架をわざわざつくったのか」にあるとして、こう指摘する。
「4メートルは、大人が手をのばした高さの約2倍で、踏み台や梯子がなければ上の段には手が届きません。CCCが指定管理者になる前の武雄市や海老名市の図書館には、そんな高い書架はありませんでした。しかし、実用性のない高い書架は、ツタヤ図書館にとって必要だったのです」
 ツタヤ図書館では、なぜ高い書架が必要だったのか。森下氏は、このように推測する。
「CCCが行う新刊書や雑誌、文房具の販売と、スターバックスコーヒーのためのスペース、そしてかなり広いスペースを図書館内部に確保するために、書庫を潰して開架スペースにしたのではないでしょうか」(同)
 また、開架スペースと書庫の使い分けの必要性を、こう説いている。
「図書館は本を提供しますが、ほとんどの利用者は、本という“物”ではなく、その中身、コンテンツに用があるのです。さまざまな出来事や流行のために、図書館の蔵書、コンテンツは早いスピードで陳腐化します。図書館の蔵書には、フロー(常に更新が必要な資料)とストック(比較的長く利用される資料)があります。図書館は、よく利用されるフローの資料が開架にないと魅力がありません。一方で、ストックの資料を提供することも図書館の大切な役割です。図書館は魅力的な開架スペースと書庫の両方が必要なのです」(同)
 森下氏は、ツタヤ図書館がすべてを開架にして、書庫を潰したことのデメリットについて指摘する。
「書庫のない図書館は、毎年新刊書を受け入れるとともに、必要な本を保存するという資料管理ができません。書庫のない図書館は、永続的な図書館活動という意味で、欠陥のある施設です。CCCは、図書館運営のための指定管理者ですが、その目的外の営業のために、書庫を潰し、書庫にあった古い資料を収容するために高い書架を設けたのです。
 それまで書庫にあった古い本も開架に配架されるようになりました。高層書架にダミーの本を置くかたわら、収容しなかった郷土資料や視聴覚資料などを廃棄したことも問題です。
 さらに、指定管理のツタヤ図書館としての再出発にあたり、系列の古書店から大量の古本を市の予算で購入しています。図書館は、まるでツタヤの“引き立て役”のようです。高い書架とツタヤ図書館の関係は、決して『素朴』ではないのです」(同)
 ツタヤ図書館をつくった自治体の役人や議員たちは、審議会等の場で、こうした図書館の専門家の意見に真摯に耳を傾けることは一度もなかったのだろうか。